この記事は、【パート1】に続き… 【パート2】です。
【パート1】では「属名の由来について」でした。今回は、種小名の由来と… 簡易的ですが「ラテン語」と「植物命名規約」のルールも交えて紹介します。
「ラテン語」「植物命名規約」の専門的な記事ではございませんのでご了承ください。
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その前に、前回の内容を確認したい方は、上記の記事もご覧ください。
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種小名の由来も、属名と同じ
「属名」+「種小名」
種小名は、属名に続けて記載されるパートで、様々な名前がつけられています。ですが、種小名も由来も属名と同じく大きく分けて「人物名」と「植物の特徴を表したラテン語」の2パターンです。
「地名」や「神話上の生き物」「etc.」の場合もあります。
人物名は、パターンが違う!
前回の「属名の由来」の記事では、人物名由来の場合は「ア【a】」で終わる… という内容でした。
今回の「種小名」の場合はどうなるのか? というと… 2つのパターンが存在し、それぞれを「パターンA」・「パターンB」とさせていただきます。
それでは、1つづつ紹介します。
人物名 パターンA
パターンAは、「種小名」の語尾が、「-アナ【-ana】」になります。
「属名」の「ア」場合と似ていますが、ちょっと違います。語尾は【ana】の3文字になります。
● Echeveria desmetiana(エケベリア属デスメチアナ)
上の写真の多肉植物は、ベルギーの園芸家ルイ・ド・スメット【Louis de Smet】さんの名前がラテン語化したものです。こちらも「属名」と同じく女性化したことで、人物名の語尾が変化します。
例)【ana】が付く植物と人物名
- Echeveria lindsayana (リンゼイさん)
- Tillandsia funckiana (フンクさん)
- Hardenbergia comptoniana (コンプトンさん)
- Viola riviniana (リヴィヌスさん)
などなど… 語尾が【ana】で終わっています。
【anus】と【anum】も存在する
実は… 人物名のパターンは3つあり、種小名の語尾が【anus】と【anum】で終わっている場合も含みます。
- 「-ヌス【-anus】」/ 男性形
- 「-アナ【-ana】」 / 女性形
- 「-ヌム【-anum】」/ 中性形
いきなり… 男性形・女性形とか出てきましたが・・・
これは、ラテン語のルールで… 人物名に関わらず、ラテン言葉(名詞)に性が付与されています。
僕は全く知りませんでしたが… ラテン語をルーツとしたドイツ語やフランス語などでは、特別なことではないようです。
また、男性形だからといって実際の男性しか使えない… といったことではなく、差別的な意味合いも含みません。
「ラテン語のルールだから、深い意味は無い」といった感じのようです。
例)ヌス【anus】とヌム【anum】が付く植物と人物名
- Senecio rowleyanus / ローリーさん
- Rhododendron roxieanum / ロキシーさん
などなど… 語尾がそれぞれで終わっています。
Senecio rowleyanus(セネシオ属ロウレヤヌス)
ロウレヤヌスも英語読みになると「ローリーさん」の名が浮かんできます。
おなじみの「グリーンネックレス」または「緑の鈴」という名で販売されています。
ここまでのまとめ
「種小名」で、人物名由来の特徴は 語尾の特徴は下記の3パターンになります。
- 「-ヌス【-anus】」/ 男性形
- 「-アナ【-ana】」 / 女性形
- 「-ヌム【-anum】」/ 中性形
※ 例外あり
ラテン語には「性」という、馴染みのない人には、ややこしい仕様を持っています。
日本人の名前で例えたら… 〇〇君 〇〇さん の違いみたいものだと思いますが… ラテン語には、ありとあらゆる言葉に性が付与されているのが不思議です。
ポイント
これまでは、人物名を探る特徴として語尾に注目していましたが、ラテン語には、すべて【男性形】【女性形】【中性形】の3パターンが付与されています。(※例外あり)
なので、人物名に関わらず、属名にも種小名にも性の3パターンがあります。
・・・
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属名の性も3つ存在する
繰り返しになりますが・・・
これまでは、人物名を探る特徴として語尾に注目していましたが、ラテン語には、すべて【男性形】【女性形】【中性形】の3パターンが付与されています。(※例外あり)なので、人物名に関わらず、属名にも種小名にも性の3パターンがあります。
「人物名」ではなく「植物の特徴」の場合
前回の属名の記事では、「ア【a】」が付いたら人物名の可能性がある… という内容でした。ですが、属名には「人物名」ではなく「植物の特徴」の場合もあります。
多肉植物なら、アエオニウム、セダム、コチレドン、クラッスラ、センペルビウムなどが植物の特徴を表すラテン語です。
ベンケイソウ科の中では「エケベリア」くらいしか、人物名由来はありません。
こういった… 植物の特徴を表す属名の場合に、性の3パターンが登場します。
属名は、命名者が自由に決められる
これは、植物命名規約のルールで、属名が初登場した際では、属名を命名した人物が、どれかの性を選択できます。指定しない場合は男性形になります。
- セネシオ【Senecio】/ 男性
- コチレドン【Cotyledon】/ 女性
- クラッスラ【Crassula】/ 女性
- アエオニウム【Aeonium】/ 中性
- セダム【Sedum】/ 中性
などなど… すべての属名に性が付与されます。その後の性の変更はありません。
植物の特徴を表す… 語尾の法則
属名に使われる言葉も、もともとがラテン語なので語尾の法則は見つけられます。
- 【-s】/ 男性形
- 【-a】/ 女性形
- 【-m】/ 中性形
※ 例外あり
属名の場合では基本的に【-s】で終われば男性形、【-a】で終われば女性形、【-m】で終われば中性形になります。
その他の文字で終わる場合は、辞書や種小名を見て判断します。
人物名の【-s】や【-m】は存在しない
特定の人物が属名に献名される場合は… 女性化するルールなので、すべて「ア【a】」になります。なので、【-s】や【-m】で終わっている場合… 人物名ではありません。
女性形は「ア【a】」が、被ってない?
語尾が「ア【a】」で終わっていると、人物名の可能性もありますが、植物の特徴【女性形】の場合もあります。
- Echeveria / 人物名
- Crassula / 植物の特徴
- Pilea / 植物の特徴
- Adenia / アラビア語のアデンが由来
- Dracaena / ギリシャ語の母竜が由来
「ア」で終わっていても、イレギュラーがありますので、完璧に知りたい場合は図鑑や辞書がおすすめです。
文法的に、性を一致させる必要がある
単語の単体でみると、性を付与しても… たいして意味のないように思えます。
ですが、ラテン語の文章や会話では、その中で使われる言葉(名詞と形容詞)の性を一致させることがルールになっています。
学名では、下記の関係になります。
- 属名 = 名詞
- 種小名 = 形容詞
属名は、名前が重複しない固有名詞です。
種小名は、「〇〇のような」とか「〇〇しい」といった意味の形容詞になり、属名(名詞)を修飾しています。
- Echeveria elegans 優雅なエケベリア (月影・エレガンス)
- Sedum pachyphyllum 厚い葉を持つ、セダム (乙女心)
- Cotyledon tomentosa 綿毛で覆われた、コチレドン (熊童子)
種小名は、属名とは異なり… 重複がOKです。
● Sedum pachyphyllum(乙女心)
【pachyphyllum】は「厚い葉の…」といった意味なので、多肉植物なら何にでも使えそうです。
調べてみると… グラプトペタルム属にも【pachyphyllum】は存在します。
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種小名の性は、変化する
もう少し… 「性を一致させるルール」について紹介します。
基準になるのは、属名の性。性も固定。
属名は重複しないので、オンリーワンの固有名詞になります。また、大元のグループ名なので、一度決まれば性は変更されません。
ですが、形容詞のポジションとなる種小名は、属名の性に合わせて変化します。
繰り返しになりますが…
人物名の場合なら、下記のように実名から語尾が変化します。
- Senecio rowleyanus/ 男性形
- Tillandsia funckiana/ 女性形
- Rhododendron roxieanum/ 中性形
例えば… セネシオ属は男性形なので、種小名は全て男性型になります。セダム属は中性形なので、種小名は全て中性型になります。
グリーンネックレスで流通しているロウレヤヌス【Senecio rowleyanus】は、男性形のセネシオに属します。
もしも… セネシオが「女性形」で発表されていれば、ロウレヤ-ナ【rowleyana】になっていました。
基本は、覚えるしかない
性が変化するといっても、自分の好みで変更することはできません。既存の学名は、すでに決まっているものなので、覚えるしかありません。
もし、これから学名が決まる場合は… その種が、どこの属(グループ)に入るかによって、性が決まります。
イレギュラーもある!
「性は3タイプある」と書いてきましたが、イレギュラーも存在し… 1つしかないモノや2つしかないモノもあります。
なので、女性形でも【-a】ではなく、【-s】で終わっている場合もあります。
男性形 | 女性形 | 中性形 |
---|---|---|
elegans | elegans | elegans |
affinis | affinis | affine |
ラテン語(単語)によっては、持っている性の数が異なるので、必ずしも語尾の法則にマッチするとは限りません。
Echeveria elegans【月影】 , E.affinis【小紫】
本来は属名の性に合わせ、種小名も【a】で終わるはずですが、エレガンス【elegans】という単語自体が1つの性しか持っていないので、どこの属(グループ)で使われても【elegans】のままです。
また、アフィニス【affinis】は、男女が共通しているので、女性形のエケベリア属でも種小名は【s】で終わります。
属名は、文脈から意味がわかれば省略できます。Echeveria → E.
種小名が、植物の特徴を表している場合
属名と同じですが、種小名も「植物の特徴を表す言葉」が使われていて、語尾の法則も同様です。
- 【-s】/ 男性形
- 【-a】/ 女性形
- 【-m】【-me】 / 中性形
先ほどの【elegans】【affinis】のように例外もあります。
最後の文字だけは、人物名のパターンと同じ
例えば… 【-anus】で終わっていなくても【-s】で終わっていれば、植物の特徴を表わす言葉の男性形になります。
【-ana】で終わっていなくても【-a】で終わっていれば、植物の特徴を表わす言葉の女性形になります。中性形も同様です。
- Echeveria desmetiana デスメチアナ:人物名
- Echeveria lilacina リナシナ: ライラック色の
似ていても…【ana】の3文字で完全一致しないと、人物名にはなりません。下のリナシナは、ライラック色を表す言葉です。
コチレドン属の「熊童子」の場合
Cotyledon tomentosa
属名を確認
コチレドンは人物名ではないので、命名者によって女性形で登録されました。コチレドン属は、永久に女性形から変更されることはありません。
なので、コチレドンに属する植物(種小名)は、すべて女性形になります。
種小名も確認
熊童子に使われている【Cotyledon】と【tomentosa】をラテン語辞典で調べてみる
コチレドン | トメントサ | |
男性形 | Cotyledon | tomentosus |
女性形 | Cotyledon | tomentosa |
中性形 | Cotyledon | tomentosum |
辞典には、それぞれの性が掲載されています。ソースは下記です。
コチレドンも、イレギュラータイプ
コチレドンのように、語尾が【-s】【-a】【-m】で終わっていない場合は、性は1つしかないパターンです。このような場合は、属名でも種小名でも【Cotyledon】です。
【Cotyledon】は植物の特徴を表す言葉なので、種小名として使われることもありますが、その場合でも【Cotyledon】のままです。
Lewisia cotyledon・・・レウィシア属の常緑多年草
トメントサは女性形
つづいて… 種小名ではトメントサ【tomentosa】が出てきますが、【-a】の法則で辞典が無くとも女性形だと推測できます。
実際… 3タイプの性が記載されていましたが、意味は「綿毛で覆われた」といった内容で1つだけです。性のタイプは複数ありますが、意味まで変わってしまうことはありません。
イレギュラーもあるので、正確に知りたければ… 辞典で確認します。
もし…コチレドンが男性形だったら…
もしコチレドンが男性形として登録されていたら、種小名も男性形となるので、熊童子の種小名は【tomentosus】になっていました。
種小名の性は、属名の性に合わせて、語尾を変化させます
・・・
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・
パート1とパート2のまとめ
由来の話から、学名のルールになってしまいましたので、下記にまとめます。
- ラテン語には、1~3つの性がある
- 学名はラテン語なので、属名と種小名にも性があり、文法上…性を一致させることがルール
- 性が変化しても言葉の意味は同じ(差別的なニュアンスは含まれない)
- 性を判別する方法は、語尾の文字を見る
- 【-s】で終わっていれば男性形、【-a】で終わっていれば女性形、【-m】で終わっていれば中性形 (※例外あり)
- 属名が人物名由来の場合は、すべて女性形されるルールなので【-a】で終わる。
- 人物名由来か… 否か… は、図鑑や辞書が必要。
- 属名の性は固定。種小名の性は、属名の性に合わせて変化する
- 種小名の人物名は【-anus】で終わっていれば男性形、【-ana】で終わっていれば女性形、【-anum】で終わっていれば中性形 (※例外あり)
これまでは、学名由来の「とっつきやすさ」を重視して、「人物名の場合」と「植物の特徴」の2パターンで紹介しました。
ですが、重要なのは「ラテン語と、そのルール」だと思います。
僕自体… ラテン語については初心者で基本もわかっていませんが、ラテン語から入ると色々な面で応用が利きやすいと感じました。
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・
人物名 パターンB
種小名から人物名由来を探す場合の法則は、もう1つあります。「まだ…あるの~」って感じですが、こちらのほうが簡単です!
それが「イ【i】」と「アエ【ae】」のパターンです。
種小名の語尾が【i】・【ae】で終わるパターンも人物名
そして、こちらのほうが「パターンA」の【-s,-a,-m】で終わるよりメジャーで、図鑑を見ると… たくさん見つかります。
【i】のパターン
- Aeonium davidbramwellii ※
- Echeveria laui
- Echeveria harmsii
- Graptopetalum macdougallii
- Sedum adolphi ※
- Sempervivum davisii ※
【ae】のパターン
- Aeonium goochiae ※
- Echeveria calderoniae
- Graptopetalum mendozae ※
- Sedum batallae ※
- Sempervivum borissovae
※ 人物名の確認はできませんでした。地名・団体名等が混じっているかもしれません。
性を一致さるルールは無用
「ラテン語の文法では、性を一致させる…」というルールでしたが【i】と【ae】に限っては、植物命名規約により除外されます。
男性なら【i】、女性なら【ae】を付ける… それだけです。属名の性に縛られることはありません。
例)エケベリア属 ラウイの場合
Echeveria laui
献名された人は「ラウ【lau】さん」ですが「イ【i】」が追加されて「ラウイ」になります。
カタカタ日本語ですと… 「イ」・「ティ」で終わったり、「〇〇〇-」のように音引きされます。
「イ【i】」と「アエ【ae】」の違いは、男女の違い
- 男性 / 「イ【i】」
- 女性 / アエ【ae】」
必ずしも、上記のように当てはまらず、例外もあるようです。
献名される発見者や援助者は、男性が多いので「イ【i】」が圧倒的です。
以上が、人物名由来のパターンBでした。
・・・
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パターンAとパターンBの違い
どちらも献名には変わりないのですが、その使い分けはイマイチわかりませんでした。
【i】【ae】にしておけば、まんがいち… 他のグループに転属されても種小名は変わらないので好都合だと思いますが… 何かしらの理由があるのだと思います。
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まとめのまとめ
長くなり… 気力がなくなってきましたが、まとめます。
属名の場合
- 基本的には、植物の特徴を表した言葉
- 語尾が【-a】だったら人物名の可能性あり
- 語尾が【-s】なら男性形、【-a】なら女性形、【-m】なら中性形が付与されている
- 属名の性は、固定
※ いずれも例外あり
属名は重複しない固有名詞で、性の変更もない
種小名の場合
- 基本的には、植物の特徴を表した言葉
- 語尾が【-i】【-ae】だったら人物名
- 語尾が【-anus】【-ana】【-amus】でも人物名
- 語尾が【-s】なら男性形、【-a】なら女性形、【-m】なら中性形が付与されている
- 単語によっては、性が1つだけ… 2つだけの場合もある
- 種小名の性は、属名の性に合わせて変化する
※ いずれも例外あり
ザックリで大雑把ですが…「国際植物命名規約のルール」と「ラテン語のルール」を交えて紹介しました。
流通している多肉植物に学名が記載されていることは、あまりない… のですが、これをキッカケに植物やヨーロッパの文化に興味が湧いていただければ幸いです。
参考文献
- 多肉植物全書 All about SUCCULENTS
- 多肉植物エケベリア Guide To Echeveria
- ヴィジュアル版 植物ラテン語事典
- ときめく多肉植物図鑑 (ときめく図鑑)
- 多肉植物検定 公式テキスト
- 眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話